寝る前の過ごし方や寝る時の環境(寝室や寝具など)が睡眠の質に影響を与えるのはもちろんですが、眠りが浅くなる原因が体の内側にある場合があります。
なかなか寝付けない方やぐっすり眠れない方は、もしかすると良い睡眠のために必要な栄養素が足りていないのかもしれません。
睡眠の質と深い関わりがあり、近年注目されている栄養素「グリシン」をご紹介します。
「グリシン」ってどんな成分?
グリシンは、私たちの体内にごく普通にたくさん存在するアミノ酸のひとつです。
アミノ酸には体内で生成される「非必須アミノ酸」と、体内で生成することができないため食事などから摂取しなければならない「必須アミノ酸」の2種類あります。
グリシンは体内で生成される「非必須アミノ酸」のひとつで、これまでは特別な働きがあるとは考えられていなかったため注目されることもありませんでした。
ところが、グリシンは2002年に行われたある実験をきっかけに、世界中で注目されるようになりました。
ある薬の有効性を証明するための実験で、比較対象として用いられる偽薬(プラセボ)に何の効果もないと考えられていたグリシンが使われたのですが、偽薬としてグリシンを飲んだ被験者の一人が翌日身体のだるさが改善されたことに気づいたのです。
この偶然の発見をきっかけに、グリシンの睡眠改善効果が研究されるようになりました。
快適な睡眠と美容の味方「グリシン」

グリシンの快眠効果
私たちの体は、眠ると深部体温(脳や内臓などの体温)が下がります。
言い換えると、私たちは深部体温が下がることでぐっすり眠ることができるのですが、深部体温を効果的に下げられないと寝つきが悪くなり、一晩の眠りも浅くなってしまいます。
私たちの体は寝る時間が近づくと深部体温を下げるために手足の末端から体温を放熱させようとするのですが、グリシンには血管を拡張させて体温の放熱を促し、深部体温を効果的に下げる働きがあります。
つまり、グリシンを摂取することで寝つきが良くなる効果が期待できるのです。
またグリシンには、スムーズで自然な眠りに導いてくれるだけではなく眠りの質を良くしてくれる働きもあります。
睡眠は「ノンレム睡眠」と「レム睡眠」の異なった2つの睡眠状態を交互に繰り返しますが、眠りについてから最初の約3時間に迎えるノンレム睡眠が特に重要だと言われています。
最初の約3時間に迎えるノンレム睡眠は一晩で最も深い睡眠状態になるため、この時間のノンレム睡眠の出現時間が短くなると「睡眠時間はしっかりとったのに、ぐっすり眠れた気がしない…」という状態になります。
グリシンにはノンレム睡眠とレム睡眠のサイクルを整えてノンレム睡眠の出現時間を増やす働きもあり、深い眠りに到達するまでの時間が短くなって深い睡眠状態の時間が増えることが近年の研究で明らかになっています。
「寝つきが良くなり、眠りが深くなる。」
これがグリシンの快眠効果です。
美肌づくりにも役立つグリシン
肌のターンオーバーを促す成長ホルモンは眠りについてから最初の約3時間に迎えるノンレム睡眠の時に最も多く分泌されるため、グリシンを摂取してぐっすり眠ることは成長ホルモンの分泌を活発にして肌の新陳代謝を促すことにも役立ちます。
また、肌のハリや弾力のもとになるたんぱく質「コラーゲン」はアミノ酸で構成されていますが、そのおよそ3分の1をグリシンが占めています。
グリシンは、健康だけでなく美容にも欠かせない栄養素です。
食事でグリシンを美味しく摂取

グリシンが多く含まれる食材って?
グリシンは体内で作ることができるアミノ酸ですが、食事からも摂取することができます。
グリシンが多く含まれる食材には以下のようなものがあります。
- 肉類(鶏の軟骨、牛スジ、豚足等)
- 魚貝(エビ、ホタテ、イカ、カニ、カジキマグロ、しらす等)
- 乳製品(チーズ、ヨーグルト、牛乳等)
- その他(豚由来ゼラチン、アーモンド、ピーナッツ、かつお節、きな粉、ココア、他)
食事が偏ってしまうとグリシンの効果を得る前に栄養バランスが崩れ、かえって不健康になる原因になってしまうこともありますので、肉類、魚介類、乳製品をバランスよく、たくさんの食材をローテーションして他の栄養分と一緒に摂取しましょう。
また体を温めてくれる野菜盛りだくさんの温かいスープなどと一緒に摂取すると、内臓が温まり栄養分の吸収もサポートしてくれるのでおすすめです。
どのぐらい摂ればいい?
グリシンは普通の食生活でも不足する心配はないとされていますが、睡眠にお悩みの方は意識してグリシンを摂取することで睡眠の質を改善する効果が期待できます。
良い睡眠のためにグリシンを摂取する場合は「寝る前に3gがベスト」だと言われています。
グリシン3gを食材に換算すると、ゼラチンで10g程度、牛乳で200cc程度、きな粉で10g程度になります。
「寝る前に牛乳を200ccも飲めない…」という方は、100ccのホットミルクに5gのきな粉を溶かして飲めば3gのグリシンを摂取できることになります。
夕食に、エビとイカに溶けるチーズをのせてオーブンで焼いたり、しらすにかつお節をかけていただくのもおすすめです。
ココアを溶かした牛乳をゼラチンで固めたココアゼリーは美味しいデザートにもなりますので、食材を組み合わせて食べるようにすればグリシン3gを簡単に摂取することができますね。
美味しい組み合わせを考えて上手にグリシンを摂取すれば、より良い睡眠を得られやすくなるでしょう。

日本睡眠改善協議会公認
睡眠改善インストラクター
市田商店店長 斎藤拓也